保身に走れ!
春に休んでいるたんぼ一面に見られる健康的な花畑のように、
廃れていた三組の教室という世界がおとぎの国に変わってしまった。
そんな魔法使いは二組のお調子者、もといイケメンと言われている大変華のある男子であったため、
自習練習に集まる三組のメンバーはキャラが薄い生徒たちだったせいで、
自分と世界が違う人間を前に、中学社会では身分が異なると口をきく権利すらない訳で、
新参者に返事をする者が居なかったのだ。
隣の組の少年が創るとびきりスマイルを浴びるも、
冴えない男子や地味な女子、例外で夏休みだからといきがっている者たちは、皆揃って笑い返せやしないでいる。
穂ノ香の中学校、穂ノ香の組では、そういうしきたりだった。
白いシャツは夏に反射するから眩しい。
男子の中では、カラーTシャツの上へ制服シャツを前開きで羽織るように着ることが流行りの今、
わざわざ第二ボタンまでをしていてる爽やかな部分が好青年らしくモテる要因なのだろう。
それから、受験で通る程度なほどほどに染めた髪に、穂ノ香が知る十代男子らしい頑張ってます的な痛い要素がないのは、
彼自体がオシャレだからなのだろうか。
居るだけで皆の瞳の中を変えてしまう人を王子様と呼ぶのは、少しノリが違うのかもしれない。
また、思わず一歩引いて全体像を眺めたくなる人は、
思わず一歩踏み出し至近距離で観察したくなる人でもあり、
イケメンという安易な言葉も馴染まないような気さえした。
「な、質問、文化祭三組なにすんの?」
綺麗な顔をしたお調子者よりも、粗末な顔をした嶋の方が好きだと思おうとできる穂ノ香は、
美的感覚がずれているのだろうか。