保身に走れ!


皆を嫌いだった。
皆が嫌いだった。

似ているようで違う言葉の綾を、穂ノ香はまだ知らない。


夕方の豪雨に掃除された夜空には雲一つなく、盛大な星たちを貼りつけている。

その下には連日残業がつかないと嘆くサラリーマンやPC作業で目の疲れに悩む事務員、

バーゲン中のノルマ達成に悲観的な販売員や東京デビューを果たし得意顔で同窓会に向かう大学生、

二世帯住居のプライバシー面を誰かに愚痴りたい主婦や健康のために始めたウォーキングで足を痛めた老人、

友達数人と仲間のブログを地面に座り読み込む高校生や弟を保育園に迎えに行く中学生、

色んな人たちがゆっくりと目的地へ進んでいる。


そして、濡れている時だけはストレートになる剛毛な髪を掻き交ぜて、とある少女は自室で恋心を疼かせていた。


少年を好きだった。
少年が好きだった。

同じようで異なる言葉の綾を、穂ノ香はまだ分からない。


携帯電話は社会人の必需品らしいが、学生のコミュニケーションに不可欠な武器でもある。


大人たちには理解できないだろうが、ピュアな少年少女には液晶画面に浮かぶ文字こそが友情の結晶で、

早く返事をすることが二人の絆となっている価値観を、

滑稽だと笑うなんて、子供心を汲み取れない哀れな年配者だと二組では認識されている。


【穂ノ香大丈夫???
 今日とか普通に
 船場さん調子乗って
 ゥザかったくね?
 ィラッ(^∨^;)】

【大丈夫!!
 ぁりがとぉね☆
 船場さんヒステリック
 なんか偉そぉだった
 引く(>_<)(>_<)(>_<)】

ピコピコ動く絵文字で可愛らしく装飾された文面が普通で、メールと普段話す時のテンションが別人のことが普通だ。

そんな皆の定番をおかしいと反論する人の方が、頑固で厄介だとされる三組は本当に青春臭い。

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