保身に走れ!
たとえば中学生の基本は主に三つだ。
部活に励めば仲間との爽やかエピソードが生まれ、将来は『あの頃の自分ら純粋過ぎてウケる』なんて良き思い出となるパターンと、
何事にも消極的で学校と家の往復のみ、同級生と絡めなかった記憶さえ、
将来は『もっと青春すれば良かった』なんてセンチメンタルに懐かしめるパターン、
そして、先輩に呼び出されたり授業をさぼったりで、絡めなかった記憶さえ、
将来は『あの頃は痛かった』なんて自己顕示欲に浸れるパターン、
どの道を選ぼうが、不正解はなく、時が過ぎた日には皆それぞれが正解となる。
周防穂ノ香の場合、地味な友達と目立たないよう大人しく一日をやり過ごす日常が、
遠い未来に『文化祭でもっと殻を破れば今が違ったのに』と、過去を嘆く青春として愛おしくなるのだろう。
明日の自分が笑えるかは、全てが今の自分の判断だ。
そう、正に今、穂ノ香が勇気を出さなければきっと三組の文化祭はまだ死んだ思い出になってしまう。
「あの!」
呪いをといて救ってくれるのは、この人しか居ないと思った。
他人任せにしろ、頼るために働きかけるのは自発的なのだから現状に文句を垂らし何もしないよりはマシじゃないか。
「ねえ!」
聞こえているのに振り向いてくれない人。
塾や家、穂ノ香の毎日では非日常的な大声で三回呼んだなら、ようやくこちらを見てくれた人。
「、なに?」
いつも分け隔てなく笑い顔を作る癖に、なぜか他人行儀だったせいで少し怯んでしまう。
いざ、接点が生まれるとコミュニケーションの取り方が分からないから、
彼女は緊張で膝が震えた。