保身に走れ!
テレビ欄が行く年来る年の頃ならば、地面にくっきりと映る分身にさよならをする時刻、
右に曲がりたいバイクの音が運動場のフェンスを通り抜けていく。
廊下には右と左に足跡マークが貼られ、生徒を未来へと導いている。
じゃあと残し、立ち姿さえモダンな少年が後ろ姿さえ陰湿な少女の前から去るのは、
彼女がオシャレっ子やギャルや美少女ではないからなのだろうか。
もしも彼女がお喋り上手で教室の中心が似合う明るい学生だったなら、彼はきちんと話を聞いてくれるのだろうか。
「待ってよ!」
三組の文化祭をどうにかしてほしい穂ノ香は、別れ際のカップル級に必死に駆け寄った。
自ら話しかける、大声を出す、追いかける、それらは異性が異質で恐れ多い普段なら、絶対ありえなかったことで、
それだけ今に一生懸命だという証である。
何の感情もない男の腕をおもいっきり引っ張った。
まだ成長途中だからだろうか、意外と細くて驚いた穂ノ香はどうしても彼に縋りたかった。
直接触れて人の熱を覚えた両手は離れない。
「わ、なに、! 、ちょ、びびる、離、」
そう言われたら逆らいたくなるのが人間の性。
彼のような性格が居るから、彼のようなルックスが存在するから、何もしなくとも嶋のような者を日陰が似合うキャラクターにしてしまう。
穂ノ香のような陰険な女と、二組のお調子者は中学生社会では身分が違うのが悪い。
周りが良くなかった、環境に問題があった、時代が困難だった、――こうやってすべてを皆のせいにすれば、自分のプライドだけは死守できる不思議。