保身に走れ!
そこでようやく冷静になった穂ノ香は我に返った。
この二組の生徒は仮にもイケメンで、自分のように可愛いとは呼びづらい地味な子に盛る訳がないではないかと。
そもそもデキ婚というあだ名は妬みからの揶揄であり、彼本人の性格など穂ノ香は去年十分に知っていたではないかと。
そして、傷は永遠に跡が残るのだと。
勝手に勘違いをし、過剰な反応で手を叩いてしまったため、どうしようと思った。
深く考えなくとも変な発想をした少女が優しい少年を不名誉に疑ってしまったのは明白である。
なぜなら、どんな厭味を言われようが毎日愛想を振り撒く柔らかな瞳の底が、
『やめて』の言葉を耳にした瞬間、今日に限り悲しみに揺れたからだ。
なのに――……
「周防、悪い! ごめん、大丈夫か? ぶっ飛ばすつもりはなかったんだよ! 痴漢かと思いまして条件反射で拒否っちゃいました、悪い、痛かったな?」
遠くまで響く大きなお喋りに強さを感じ、どうしてか穂ノ香が泣きたくなった。
なんで、
怒らないの? ムカつかないの?
なんで優しくしてくれるの?
私は……デキ婚を皆みたいに嫌がった、のに
なぜって、うるさいぐらいのそれは、つい先ほどまでここに居た男子生徒へと届けるためだと分かってしまったせいだ。