保身に走れ!

当てられる以外喋らない嶋は、一体何が楽しくて生きているのだろうか。

ドスコイと効果音をアテレコされる船場は、一体何が嬉しくて生きているのだろうか。

ステージの端にいるお調子者を一生懸命見つめているその瞳が自分と被り、穂ノ香はかぶりを振った。

身の程知らずの彼女のことだから、どうせ叶わぬ片思いを続行中なのだろう。


「デキ婚ってイベントになると張り切るよな。そやって女に良いとこ見せてアコギなわ」

「つか船場デキ婚に告ったらしいな。どんだけポジティブよ」

「無理だろ、あ、今更だけどあだ名がデキ婚ってやばくね? 直球すぎて強ぇ」

誰かを嘲笑うしか趣味がない彼らは、一体何が面白くて生きているのだろうか。

デキ婚と命名された二組のお調子者は、一体何が幸せで生きているのだろうか。


「デキ婚んマミー若いし綺麗し普通にできるわ俺」

「もう、男子! 気持ち悪い話やーめなよ」

「お前ら聞いてんじゃん!」

「だって煩いんだもん」

私語を止めない彼女たちは、一体何が愛おしくて生きているのだろうか。


「デキ婚って付き合ってもモテるし亜莉紗なら無理」

「だよね、顔が良いから年上女に誘惑されそう」

親友に内心見下されている亜莉紗は、一体何が目的で生きているのだろうか。

本当に好きな人に好きと言えない穂ノ香は、一体何が生き甲斐で生きているのだろうか。


「三年二組の皆さんありがとうございました。会場の皆さん、もう一度二組に盛大な拍手を――……」


体育館ステージで、上手く自分を捨てて痛い中学生を演じられる者こそが、

皆の記憶に生きていくのだろうか。

誰か知っているなら、周防穂ノ香を諭してほしかった。


< 88 / 122 >

この作品をシェア

pagetop