保身に走れ!

どうせ九月の終わりに自分は親の都合で転校をするのだから、どうせ船場の次に自分は嫌われ者なのだから、

そうやって穂ノ香自身の状況を整理すれば、もう全てがどうでも良かった。

彼女だって馬鹿ではない、クラスメートを諭すのは今だと分かっている。

『卒業生なんだし頑張ろうよ!』

『文化祭ぐらいちゃんと歌おうよ!』

三年二組のように一致団結し、数年後の同窓会で語りたくなるステージを作り出したかった。

いいや、大切な仲間と過ごした時間という記憶が欲しかった。


夢を叶えるならタイミングは正に今、大きな声で伝えなければならない。


椅子や机を並べて三列になったひな壇、そらで描けない校章、ミュージカルで使ったバミリテープ、

ここは体育館、青春が似合う場所。



「――――あの、!」

普段は保守的な穂ノ香が勇気を振り絞り口を開けたのと、それは同時だった。

「じゃあ皆、頑張ってくれ! 先生は客席で見てるからな!」

他人事のつもりなのか、爽やか口調の割に面倒臭そうに仕切り、先生が退陣していこうとするのが憎たらしかった。


『あの! 皆一回ぐらい記念に歌おうよ』

そう、言いたかった言葉は音を成さず、担任のせいで完璧にチャンスを逃してしまった。

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