保身に走れ!

一生懸命カメラを回す親、隣の子との雑談に夢中な下級生、

無心で携帯電話をいじる先生、居眠りに積極的な同級生、

か細い声で一応歌う生徒や口パクでパフォーマンスはとる生徒が所属する三年三組。


そう、穂ノ香は穂ノ香だから結局皆に説教ができなかった。

輪を尊び流れに身を委ね、周りと一緒に『文化祭に合唱なんて最悪だ』とばかりに、仏頂面で唇だけを動かしている。


この先ステージに立つのは卒業式くらいかと思えば、

列の端に居る彼女は切なくて堪らなかった。

保護者席や関係者席、生徒席に自由席、一通り目をやると、自分が情けなくなった。


ピアノが鳴るのに、場内を静寂が包むことなんてあるのだろうか。

二組のグループがちらほら立ち、トイレへ脱出しているようだった。


好きな人を見ても目は合わない。
船場のように告白さえできない。

嶋は一人、いつも一人。
嶋は誰とも群れずに独り。
ピアノを弾く手でいつかの未来、大切な女の子に触れるのだろうか。

あの日、本当は手を繋いでみたかった。


合唱が二番にさしかかる頃、「船場より周防のが人間的にキツくね?」という小さな文句が聞こえた。


三組はこのままで良い訳がない。
三組は絶対に変わらなければならない。

違う、皆を批判する暇があるなら、クラスに責任を押し付ける頭があるなら、

まず自分が変わらなければならなくて、それには頑張るしかないのだと今回ばかりは本当に反省した。


「あの!」

――――唇に魔法をかけるのが、虚勢なら学生らしくて合格となる。

< 92 / 122 >

この作品をシェア

pagetop