保身に走れ!
そもそも三組の連中に何を言われようが、彼らこそ幼稚なのだから、
そんな相手に何を噂されようが何を評価されようが、
冷静に考えれば、こちらからすれば痛くも痒くもない話じゃないか。
小さな葛藤に決着をつけた少女が、日陰の似合うキャラクターらしからぬ大きな口を開けたのは、
嶋が奏でる課題曲がサビに入るのと同時だった。
「ねえ、ちゃんと歌お! 中学最後でしょう? うちのクラス一番最悪!! 三組が一番最低じゃん!」
一気に吐き出した言葉に、体育館ごとドン引きして、地球が静かになったのが分かった。
痛い、ヒステリック、情緒不安定、今後どんな風にイジられようが、
もともと根暗な性格で同級生に嫌われがちな穂ノ香の生活に、そう変化はないと自分を騙した。
本当は嫌だ。
こんな変な役回りはごめんだ。
ひっそり生きていければ、中学時代は安泰だと知っていた。
明日から恐らく船場に代わり、『ゴースト』が皆の笑いを誘うのだろう。
そんな未来を回避したいため、いつだって穂ノ香は地味に控えめに行動してきたはずなのだけれど、
あの人が導いた大好きなピアノの音に包まれていたせいなのか、憂鬱ライフの幕開けも不思議と大丈夫だった。
なぜなら、三年三組を飛び越え中学時代がどうでも良かったからだ。