保身に走れ!
「周防どしたーヒステリーかよ?!」
「なになに、周防さん、なにー? 何よキレた系?」
嘲笑めいた表情の男子と女子が三組ではオシャレと持て囃される存在だけれど、
二組に行けば逆にダサいだけで、大人たちからすれば痛いことくらい分かってしまったため、
文化祭で狂乱した穂ノ香が今後は船場のようにイジられるポジションになろうがどうでも良かった。
そう、誰かに批判をされる時、その誰か自体に価値がないとちっとも影響力がないのだと分かった。
普段地味で存在が謎な穂ノ香なので、今はさぞ狂った変な女として見えているのだろう。
構わない、三組なんて嫌いだったせいてどうだってよかった。
皆だって知っているはずだ。
生身の人間とのコミュニケーション能力が欠落した未成年が、たいてい動機がアレな厄介な殺人未遂のニュースで世間を騒がせがちだと。
そういう子のほとんどが『真面目』『大人しい』『勤勉』だと言われがちなことを。
「穂ノ香?! ……どしたの?」
「わたし三組なんかなりたくなかった! ピアノ、綺麗じゃん! ちゃんと歌おうよ!、船場さん最初からやり直してよ!」
アルト、ソプラノ、テノール、なんだっていい、穂ノ香は亜莉紗に怒鳴った。
何もせずに諦めて後からああだこうだと周りの環境を悲観するなら、
その場で茶番を繰り広げる方が、彼女は青春らしくて綺麗だと思った。
それを教えてくれたのは、嶋に唯一笑顔を与えることが可能な少年だから――
「うっわ、リアルにあぶねーオンナ発見、つかピアノピアノ周防って嶋んこと好きなんじゃねーの?!」
しかし、それは禁句で、さっきまで攻撃的だった彼女を怯ませるには威力があったと同時に、
真っ赤になった顔から恋を読み取るには事足りて、たちまち勇気を吸い取られてしまった。