保身に走れ!
「図星! やべぇ周防嶋がー好きなんだってー!」
「うっそー、ウケるお似合い!」
「違っ、」
涙が出そうになったのは面白おかしくからかわれたことではなく、
仮にも自分に纏わる恋の話だとしてもお構いなしに嶋が悠長にピアノを弾くせいだ。
それは、つまり、失恋を意味する――あんまりだ。
三組は最低だった、一人の女子生徒の清潔な片思いをずたずたにして笑いやがるなんて、あんまりだ。
しかも、亜莉紗は穂ノ香と親友の癖に、
味方をしてくれるどころか一秒前で仲良しグループを解消させたのが分かった。
なぜなら二人は今確かに隣に居るのに、賢い彼女が中学生レベルの利害関係を考えたらしく、
船場に代わった穂ノ香と一緒のグループに属することで何も得をしないと察知した印に、
唇には皆と同様に笑みが添えられていたのだ。
ウザイ最低、亜莉紗うざ
青春における親友という定義は、いざという時に駆け付けてくれたり、親身になって相談に乗ってくれたり、
なんでもないことをまるで自分自身のことのように喜んでくれたり、時には親より厳しく叱ってくれたり、
何も言わずにただ傍にいてくれたりして、
心が繋がる大切な存在らしい。
けれども、平成の国では、親友とは数が多いことが人望の証明で、独りにならない道具で、
自分の都合が良い時に仲良くする便利な存在を指すのである。
案の定、友情より保身を選ぶクズな亜莉紗なんか穂ノ香は大嫌いだったし、
この半年行動をともにしていようが自分たちには友情がなかったのだと笑えた。
そう、穂ノ香は悔しかったのだ。
亜莉紗ごときに見限られた自分が。