保身に走れ!

けれども、別に亜莉紗だけが悪人な訳でもない。

そこは親友というべきだろう。
穂ノ香の心の汚さならば、亜莉紗と非常によく似ていた。


そう、穂ノ香だって純粋を盾に奇行に走ったのではない。

彼女もまた親友と同じく自分の立場を計算する節があり、

文化祭のために己を犠牲にし頑張る姿に、大好きな少年が惚れてくれると踏んだからだ。


つまらないクラスメートを改心させ、ひたむきに訴えかけることで、

たとえ外見が芳しくなかろうが、内面の豊かさに気づいてもらえると信じたからだ。



それがどうだろう。
誰にも伝わりやしない。

観客席はざわつき、舞台袖では生徒会が相談し、保護者席では顔を見合わせ、

先生たちはどうしたもんかと困惑している。


こんなつもりではなかった。
穂ノ香の予定では、皆の説得に成功し、今頃仲良く合唱をしているはずだったのだ。

まさか、自分だけが非難集中攻撃されるなんてつもりはなかった。




「皆しね!」

小学生でもなかなか言わない斬新な捨て台詞を残し、半泣きの穂ノ香が舞台を駆け降りた時だ。



「なんだよ、このクラスはどうされました?、まとまりがねぇなあー」

「ほーんと、青春台なしじゃない!」


合唱が中断された悲惨なステージに現れたのは――

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