Rain 2
『ここや』


お父さんはあたしにそう言ってドアをノックした。


『香織入るぞ』


一言、中に声をかけてからお父さんはドアを開けた。





あたしは初めて見た無菌室に、言葉が出なかった。


テレビでは見たことはあったけど、実際目にしたものはあんなによく見えるものではない。


ビニールのように覆われてるうえ、その手前にはガラスの壁もある。

声なんて聞こえるはずもなかった。



そこで見たものはただ隔離された一人の人間で…。


頭にはグレーの帽子を被り、両手には痛々しい点滴がついてあった。



顔色も悪くて唇にも色がない。


抗がん剤であれた肌。

寝たきりのあの子…。




つい数日前にはロビーの自販機まで歩けてたのに…。


病気の怖さを知った瞬間だった。
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