未完成なアタシと君と。

>>>午後9時


あの要求は許可された。
快くは思っていないみたいではあるが。
そして、驚くべきことに手術跡も残らない。
私の、顔。


『郁の望みなら』

『何度でもかなえてあげよう』


私の顔は自分ではみたことがない。
私には「郁」の顔しかしらない。
しかも博士の記憶の中での。

私の顔は、もう分からない。
どこかにうつらないものかと思うけど、なぜか鏡がない。
私の顔は歪ではないだろうか。
未完成ではないだろうか…


「やあ、父さん」

「……お前か、そうだ、その子の部屋を紹介してあげなさい」


…!
郁、じゃ、ない。

私は、郁ではなくなったということなのだろうか。
私はまた、1からなのだろうか。


「……うん、わかったよ、任せて」

「あと…その子の…」

「うん、はい、わかったわかった」


ケラケラと笑って彼は私の手を引いて部屋から出た。
さっきも思ったがここは病院か何かなのだろうか。


「そんなにきょろきょろしないの!ここはね、地下実験施設って感じ」

「地下…ですか?」

「うん、父さんの秘密基地みたいな感じかな」


秘密基地…
何か危ない組織とかなのだろうか…。
普通の一般人はきっと地下室なんて持っていない。
しかも手術をしたそのあとに手術をするなんて設備、すぐにそろうはずがないのだ。


「…っ、私」

「あ、君の名前は、俺が決めるから」

「…え…?」

「君はもう、郁じゃないでしょ?」


…博士は、私を郁として作った。
郁として、生きてほしかったはず。
郁を、生き返らせたかったはずなのだ…!


「違うっ!」

「君は郁じゃない」

「博士は私を郁として作ったのです!私の名前は郁以外ない!」

「顔は!!!……顔は、郁じゃないのに?」

「………は…」


変えろと言ったのは、あなただ。
なのに、どうして…どうして…


どうして、そんなに、悲しい顔をする?
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