モノクロの音色よ鮮やかに響け
「中二の春に、目の痛みで病院へ行ったら、悪性腫瘍だった…」

曲は『葬送行進曲』
癌だとわかった時の、若い川畑の絶望を表すかのようだ。
「目を摘出するしか生きる道がないと知った時は、いっそ死んだ方がいいとさえ思った」
「そんな…」
私は思わず口をはさんだ。

独り言のように話していた川畑は、回想から一瞬戻って私に笑いかけたが、また記憶をたぐる旅に入って行った。

「俺が入院している間に、合唱部は勝ち進んで、全国コンクールで入賞した。俺は…」
葬送行進曲が終わり、音楽が止まった。

「今思えば、ピアノ伴奏をおりざるを得なかった挫折を…暗闇に落ちたあの時を、ずっと引きずっていたのかもしれない」
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