モノクロの音色よ鮮やかに響け
先ほどのお釣りの時と言い、知らない人ならムッとしそうな言動だったが、私は少しだけ川畑の事がわかって来ていた。

川畑は、自分の出来る事と出来ない事が、よくわかっている。
そして出来る事は自分でやる。
ただ、出来ない事を、うまく伝えられないのだ。
うまく他人を頼れない、と言った方が良いかもしれない。

それは、察して欲しいからなのか、プライドからなのかわからないが、命令にも聞こえる独特の言い切る感じの口調とあいまって、無器用で損をしているのは明らかに思えた。

私はお茶を煎れたティーポットと、布巾を絞ってお盆に乗せ、慎重にリビングまで運んだ。

先ほどまでとは少し違う雰囲気のクラシック曲が流れていた。

聞いた事はあるし、けっこう好きな曲だ。
でも、タイトルが浮かんで来ない。

「この曲、好きです」
「ショパンの夜想曲…ノクターンだ」
どうせ知らないのだろう、とばかりに川畑は聞く前に教えてくれた。
そして、今聞いてタイトルと曲が一致した私を見透かすように、クスッと笑った。
 
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