モノクロの音色よ鮮やかに響け
「俺も好きだ」
私は妙に胸がドキドキと高鳴ってしまい、これは笑われたせいだ、と自分を言いきかせて、深呼吸をした。

せかせかと台拭きでテーブルを拭いて、ティーカップにお茶を注ぎ、川畑と自分の席に置いた。
寿司桶と、醤油用の小皿も置いて、箸を並べる。

不思議なもので、リビングを包み込むような音楽の中で、緊張している空気が段々と溶かされて行くように、私は落ち着きを取り戻していた。

「リンゴは今剥きますか?」
「いや、食事の後でいい」
そういえば、リンゴは切らさないようにと言ってたっけ。

「リンゴも好きなんですね」
川畑は頷いて言った。
「一日一個のリンゴは医者いらずだ。お前も食べるといい」

あぁ、リンゴ2つの内の1つは私の為にだったんだ。
私はそう思って、少し温かい気持ちになった。

「川畑さん」
「なんだ?」
「ありがとうございます。お寿司も。リンゴも」
川畑は軽く頷いただけだったが、唇の端が笑っていた。
 
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