モノクロの音色よ鮮やかに響け

お寿司は、本当に美味しかった。

川畑は、箸を使わずに手で食べた。

私は、グルメレポーターになったように、
「サーモン、脂がのってて美味しい！」
「川畑さんが今取った白身のお魚、さっき食べたら金目かな、と思ったんですけど、どうです？」
「おっと…川畑さん、イクラが落ちました。山盛りだから…」
なんて言いながら、拾いついでに、川畑が知らずこぼした醤油をさり気なく拭いたりした。

私は、川畑にわかるようにと注意深く話しながら、
『あれ』『これ』『それ』といった目からの情報を前提にした言葉を控え、主語をはっきり言う事を学んだ。
これ美味しい、では伝わらない。

川畑は言葉少なに、一貫一貫を噛み締めながら食べていた。