モノクロの音色よ鮮やかに響け
…わからない。
川畑も言ってたように、考えてわからない事は聞いた方が早い。

「川畑さん…」
言葉に詰まる。
「仕事は?」
「…終わりました。他にやる事があったら聞こうと…」

「ならば、今日はあがってくれ」
川畑は感情を抑えているように、いつになく低い声で言って、ピアノにカバーをかけ蓋を閉じた。

私はそれが、川畑が心の蓋を閉じたように思えて苦しかった。
きっと、今は聞いても何も話してくれないだろう。
「わかりました。帰ります。お疲れ様でした」

私は頭を下げて、頭上で川畑のいつもの舌打ちが聞こえないかと少し待ったが、虚しい沈黙のまま頭を上げた。

悲しくなった。
涙が出て来たのを悟られないように、声を殺して、鞄だけは掴んで、傘も忘れて川畑邸から逃げるように出て来た。
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