訳有彼氏

 「そ…そうだよね。姉妹なんだし、これくらい…グス」

 おいおい…45にもなって義妹の前で泣くなよ。

 お姉にバレる前に適当に慰め、手洗いうがいもほどほどに私はようやく二階へ駆け上がった。

 ドアノブに手をかける前軽く三回ノックをするが、応答は無い。

 この部屋に住む望月 鴉孤(もちづき あこ)と言う男は人が嫌いで、返事などまず返ってこない。

 それをこの家の者は心得ているので、ノックは入りますよ。と言う合図の様なものだ。
 
 「あこ…」

 静かに、出来るだけ音を立てないように扉を開け、中に忍び足で入った。

 部屋の中には机とベッドと本棚しかない。

 本棚には私が決して読まない様な難しい題の本が並べられている。

 その前に座り、ベッドに眠る鴉孤の顔を覗き見た。

 灰色の髪に触れると、鴉孤の瞼が軽く震えた。

 どうやら起きるらしい。どれだけ寝ていたかは知らないが…


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