【完】霧雨カーテン
「あれ、定期入れ変わった?」



 気が付いてくれようとは、一切予測していなかった。何故、そんな細かいところまで感知できるのか。いつもいつも、周りに気を配っているからだろうか。



「あ、うん……」



 そして私はなぜ気づかなかったんだろう。鞄の中に、眼鏡ケースが入っていない。瞬時、私は絶望する。



「そういえば、今日席替えだよなー」


「そう…だね」



 ショックのあまり声があさっての方向に向かっている気がして仕方がない。今の席は、前から三列目。ここでも眼鏡をかけないと黒板の小さな文字は読めないのに。


 一、二列目の席を確保すればいい話なのだが、高校入学当初前から二列目の席だった私は、早々に居眠りをしてしまいこっぴどく叱られたという経験がある。決してなりたくはない。


 それに加え、悪い状況とは暫く続いてしまうものでもあり。


「……げ。そういや今日日本史あんじゃん」



 隣から聞こえてきた声に、自分の顔が相当げんなりしているのが、強く自覚される。


 ただでさえ字が汚く読みにくい日本史の教科担任。更にあの先生は生徒にどんどん質問していくから、まさか黒板の文字が読めないなどということがあろうものなら、どんな説教をも免れることは出来ない。


 以上により選択の余地を失った私は、決断する。



「仕方ない…か……」

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