あの日【短編】
先生は静かに会議室のドアを開けた。
薄暗い会議室はカーテンの隙間から白い光がほんの少しばかり入るだけだった。
……先生と二人
それだけで鼓動が先生に聞こえてしまいそうだった。
「…申し訳ない」
先生はなかなか目を合わせてくれず、ただうつむくだけだった。
「…何が…ですか?」
私がそう言った瞬間に先生は顔をあげた。
「意識不明の状態になって目を覚ましたときから…生徒の君のことだけ思い出せないんだ」
……私のことだけ
思い出せない?
「…うそ、でしょ?」
じゃあ先生はあの日を知らない?
私への気持ちも?
私たちの関係も?
すべて忘れてしまったってことなの?