Tricksters

──────青天目ビルヂングは、今日も賑わっていた。
毎日通勤してるのに、未だに顔見知りは裏手に繋がれた老いぼれた犬だけだ。

ダランと伸びた舌で水を飲んでいる。
特にやせ細っているわけじゃないから、誰かの飼い犬なんだろうけど
こんな番犬にもならないような犬を、一体誰が何の為に飼ってるんだろうか?



コンクリの階段を降りて
関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアを開く。


「おはよ、ミエちゃん」

「おはようございます」


「アイツ来てる?」

「アイツ?」

「ゼン所長」


ミエちゃんは、キリリとした眉をつりあげた。


「私は、秘書じゃありません。本当は、秘書になりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくてなりたくて何度もお願いしたのに、どーしても譲ってくれない、あの女に聞いてください」

「アハハ……そうだね」


ミエちゃん、連呼しすぎ

どんだけ秘書になりたかったのか、よく理解できたぜ。



社員証をスキャンする。

すると、『ブーッ』とブザー音がした。


「はあ?」


扉は開かない。

もう一度スキャンする。


ブーッ

ブーッ

ブーッ


「ふざけんな! なんでだよ!」


扉に文句言って、ガツンと蹴り飛ばす。


「ご用のない方は、お帰りください」


ミエちゃんの冷ややかな声が背後から聞こえる。



「違う。ミエちゃん間違えだ。俺、毎日ここ通ってただろ?」

「ですが、ご用のない方はここを通過することはできません」



「用ならある。頼むから開けてくれないか?」


「何か、誤解されているようですが
“コチラからの用がない方”をお通しするわけにはいきません。
お帰りいただけないのなら、警備の者を呼ばせていただきますが?」



これが……





これが、アイツのやり方か……







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