Tricksters
北側の部屋で、ピザージャのユニホームに着替えた。
驚くくらいサイズがピッタリだ。
ってか、田中くんが届けりゃいーじゃん。
田中くんの方がはまり役だった。
でも、“なんか意味がある”んだろうな。
少し冷めてきたピザを片手に持つと、履きつぶしてくたびれたスニーカーをはいて、注意深く玄関扉を開く。
ここから出るとこ見られたら意味ねーし
玄関扉を少し開いて様子をうかがう。
「なんで私の部屋なのに入れないのよっ!」
部屋の外には、女の怒りの叫び声が響いた。
「申し訳ございません。頭取の指示ですので、今夜はホテルヲータクのスイートをご用意してあるとおっしゃっておりました」
もう一人は、男の声だ。
ヤバい、時間がない……
はやくいなくなれ……
「そんなこと言って! 一人でスイートは嫌よ! あの人は来てくれるのよね?」
マンションの通路は、真っ直ぐだ。
見通しがよくて隠れ場所はない。
だだをこねて叫び声をあげてるのは、お隣の愛人さんだろう。
何度か後ろ姿だけ見たことがある。