Tricksters
「盗むつもりはありませんからーっ!」
言い訳しながら走る。
佐伯社長が本物の警備員になったなら、このキャスターは社長の手で武尊之銀行の支店の金庫に入るべきだ。
でも、あのままじゃ
アイツの口車にのせられて奪われちまう。
アイツの正体を知ってる俺がなんとかしねーと
非常口の扉を開くと、直ぐに非常階段に出る。
五階に位置する非常階段の踊場で俺は足を止めた。
さっきいたメンバーほぼ全員が追いかけてきたようだ。
「近寄るな! これを投げ捨てるぞ!」
シルバーのジュラルミンケースを二つキャスターから下ろして、踊場の柵から下を見る。けっこう、高いぞ五階。
「コイツがここからバラまかれたら、厄介なことになるんじゃねーの?」
内密な政府支援金だ。
二十億がマンションの非常口からバラまかれれば間違いなくニュースになる。
下には、車が行き交う幹線道路がある。
車通りは少ないけど、ゼロではない。
「やめろ! やめてくれ!」
武尊之頭取は、焦った面もちで頭を抱えた。
頭取の後ろには、二人のオッサンが頭取を支えるよに顔面蒼白になっている。
アイツは、余裕の笑みで懐中電灯をクルクルと回した後に「ふん」と鼻を鳴らして笑った。
佐伯社長は、俺に気がついたのか目を丸くする。
「淳一やめろ……なんで、お前が?」
「佐伯社長! そいつら詐欺師です! この金を狙ってる」
俺が正体を明かしてやっても、アイツは狼狽えたりしない。
ただ、「面白くなってきたな」と呟いてクスクス笑っている。
その笑い顔、絶望に変えてやる。