Tricksters
「はやく突っ込めよ」
「そうだぞ、淳一は俺の下で働いてたんだ。もう少し突っ込み上手になっているべきだ」
ああ、もう二十億バラまいちまおうかな?
やってらんねー
ジュラルミンケースを非常階段の柵の高さまで持ち上げる。
「わーっ! やめてくれ!」
「淳一! はやまるな!」
焦るのは、武尊之オッサン三人と佐伯社長だけだ。
俺が最もこらしめたい奴は、表情一つ変えない。
「淳一は、それを投げない」
どんな根拠があるのか、俺の目を真っ直ぐ見つめて諭す。
「淳一、頼むから……それを渡してくれ」
佐伯社長がゆっくりと俺に近づく。
その後ろにはタカシくんがいて「そうだぞー淳一。渡せ」とニヤニヤ笑いながらメガネをクイッと上げた。
渡すなら、佐伯社長に渡したい。
それなのにどうしてタカシくんがSECOI警備会社の制服を着て佐伯社長とコンビを組んでいる?
タカシくんはアイツと同業で間違いない。
社長は人がいいから、タカシくんに騙されて奪われる可能性もある。
それも、嫌だな……
それなら武尊之オッサンたちに……