Tricksters


「淳一」

アイツは、存在自体が詐欺みたいなもんだ。

完璧な容姿に、人懐っこい顔、自分勝手な性格のくせに人に好かれて大切にされている。


「楽しかったな」


楽しかったよ。

短い間だったけど。



最低にスリリングで、今まで悪くないと思っていた人生が霞むくらいに……



「淳一、事情をわかってやれなくて悪いな……その三人が何者かは知らないけど、俺たちも、そのケースがなくなると困る」


「佐伯社長……わかってます。このケースが大切なモノだってことは、でも俺には選べない」


選択できない。

どちらも選べない。



ケースを非常階段の踊場に二つ並べて置く。



「ケースを持て! 警備会社に頼らず自分たちで運ぶぞ!」


最初に声をあげたのは武尊之銀行頭取だ。
全国に支店を持つメガバンクのトップは、腰が抜けていても部下に指示を出せるんだな。

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