Tricksters
だけど、事件はまだ終わらない。
「助けてあげてくださいっ! 誰かがエレベーターに閉じ込められてます!」
マンション内に響く悲鳴は、非常階段にも届く。
停電の影響で、エレベーターが止まったのか?
電気が復旧してもエレベーターは、安全のため停止したままになる事がある。
建設現場で働いていた時の知識が、頭の片隅で蘇る。
アイツは既に走り出していた。
「待てよ!」
俺も追いかける。
普通は、エレベーター内に管理会社と繋がる電話があってそれで助けを呼べるはずだ。
「ああ、SECOI警備会社さん! エレベーターの中から声が聞こえるんです!」
マンションの住人らしき主婦が、アイツを本物の警備員と勘違いした。
「お前たち、何階でエレベーターが停止しているか確認してこい!」
「はい!」
アイツの指示で、二人は通常の階段を駆け下りた。
「待てよ! エレベーターの事は管理会社が到着するのを待ったほうがいい! 危険だし、警察や消防がすぐに来てくれる!」
俺は、アイツの胸ぐらを掴む。
「呼べるわけないだろ……。我々で問題を解決する」
アイツは冷たく俺を睨む。
二十億は、男たちの手で通常階段を降りていくようだ。
「たすけてー! 誰かいるのー!」
エレベーターの扉からは、女の声がした。
そうか!
停電前にエレベーターに乗ったのは、武尊之頭取の愛人だ!
「大丈夫だ! 今、救出に向かうぞ! 安心しろ」
ゼンが、エレベーター扉の隙間から声をかける。
「扉、開けられるかもしれない……」
「そうか! 淳一。さすが現場で働いてた奴は頼もしい。下の階だ。行こう」