Tricksters
佐伯社長が、レバーを力いっぱいに引いた。
すると簡単に扉は開いた。
中には、化粧の濃いホステスみたいな女が一人でうずくまっていた。
「助かった……」
涙で化粧はぐちゃぐちゃだ。
よほど怖かったんだろう、中は真っ暗で眩しそうに目を細めている。
「お怪我はございませんか?」
アイツは、優しく微笑むと愛人さんを姫抱きにして外に出す。
「大丈夫です……」
愛人さんの顔からは、恐怖も不安も消えて
既にアイツに心奪われているようだ。
「それは良かった」
抱きかかえられた愛人さんを下ろす。
「我々、警備の勤務中ですので失礼いたします」
「は……はい、ありがとうございました……」
「淳一、行くぞ」
「えっ? お……おう」
どこに?
「社長は?」
「いいから行けよ。俺はまた職探しだな」
「社長、すみませんでした。変なゴタゴタに巻き込んで」
「気にするなよ。力になれてよかった」
申し訳ないと思った。
この人は、金なんてどうでもいいんだ。善意で動いてくれた。
そしてそれは、アイツも同じ。