Tricksters
「さっきから聞いてりゃ、
人の事"そんな男"だ"低能な男"呼ばわりしやがって……」


タカシくんの眼鏡が、またずり落ちた。


「オマエが、そんな傲慢な態度だからヨシミちゃんが愛想つかしたんじゃねーの? 

人をバカ呼ばわりする前に、オマエは何様なんだよ! 

ふざけんな!」


別に、俺はキレたわけじゃない。

口が悪いから、そう聞こえるかもしれないけど

至って冷静。



タカシくんの下唇が、プルプルと震えて

眼鏡を元に戻すと、こっちを見ながら涙目になった。

それから、

通行人を掻き分けて走り出し、その姿は人混みに消えていった。




タカシくんの姿が見えなくなると、ヨシミちゃんは俺から胸を離して腕を解いた。


「ありがとうございました。助かりました、成功報酬はお約束通り、指定された口座に振り込みます」


顔に特徴がなくて、例えるなら『普通』としか言い様のないヨシミちゃんは、安堵のため息を漏らす。



「彼奴と、別れたかったのか?」


「はい、しつこくて職場まで来られて迷惑していたんです。タカシくんはプライドが高いから、真逆のタイプの男を連れてくれば綺麗に別れられるって所長さんがアドバイスしてくれました」



ふーん……

これが、"手品とかなんかそういうの扱う仕事"なのか?



「ヨシミちゃんは、所長の知り合い? あの人の何を知ってる?」


「いいえ、一度お会いしただけです。"人間関係のトラブルを解消したりとかなんかそういう仕事"をされているって事しか知りません」


ヨシミちゃんは、頬を赤らめると下を向いた。

あの男前を思い出して赤面した、そんな感じだ。



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