Tricksters
うちの社長は、やる気ある奴の意気込みをかってくれる人だ。
無遅刻無欠席だった奴には、ドンとボーナスをくれるし、残業代だってきっちりと支払ってくれていた。
現場で働く俺たちに、缶コーヒーを差し入れしながら『現場のお前たち一人一人が頼りなんだよ』って肩を叩いてくれた。
だから、誰かに認めてもらえる仕事にやりがいを感じて、飽きっぽい俺がそれなりに続けていられる。
給料の前借りなんてことは初めてで不本意だけど、うちの社長なら事情を話せば応じてくれるはずだ。
俺は、真面目に働いてきたしそこそこの信用は得てきてるはずだし……
っていうか、貸してもらえねーとマジでヤバイ。助けて、社長。
すると、布団の上に俺と一緒に転がっていた携帯が赤く点滅をはじめた。
「ジリリリ」という、買った当初の設定のままの着信音。
李花からか?
やっぱり一緒に来てくれとか言うんじゃねーの?
俺は含み笑いして、着信元を確認せずに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『淳一か?』
「社長!?」
予定外の声に、俺は焦った。 テレパシーかよ!
彼女からの電話だと思ったのに、いきなり上司だったら、そりゃビビるだろ?
つぶれた布団の上で、正座をしてみた。
ちょうどよかった、前借り催促してみよう……