Tricksters
だけど、電話の向こうの様子がなんか変だ。
普段はワイルドな社長が、今日は弱々しく溜め息をついている。
「社長。どうしました?」
うちの会社は、現場で働くたった数十人の規模。俺みたいな若い奴ばかりで、職場は活気があって楽しい。その中心にいる社長も活気がある人だ。
『すまない……淳一』
いつも自信に満ち溢れていて、社長は俺の憧れの男だ。
「どうしたんすか? 何かありました?」
『うっかり手を出したヤミ金の返済が滞って、自己破産した。会社が倒産した』
「はあぁ?」
また、ヤミ金かよ──!!
何が、起こったかなんて分からない。
強いて言うなら、俺はこの時既にあの男の罠に嵌められていて、それに全然気がつかないで携帯を握り締めていたんだ。
『お前なら、若いし何度だってやり直せる。ごめんな淳一……』
「社長、そんな……待ってください!」
一方的に途切れた電話。
社長の声は、酷く弱々しく。それが、現実なんだって理解するには充分すぎた。