【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
母親の顔は思い出すことが出来ない。


聖子ちゃんカットのような髪型だったのだけは思い出せるけど。


そんな母親とのわずかな記憶。


ほとんどが背中。


キッチンで料理をしている母親の後ろ姿。


私はクレヨンで一生懸命その母親を描いた。


笑ってくれると思っていたのに、叩かれ蹴られた。


クレヨンがテーブルにはみ出していたから。


線路沿いの道を歩いて行く。


母親は歩くのが速くて、どんどん背中が離れていった。


必死に待ってと叫びながら走って追いつき、母親の手を握った。


大きくてあったかい手だった。
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