【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
連れて行かれたのは、園庭だった。


雪が溶けかけぬかるむ土の上を、陽介は気にもとめないで雪と泥が混じった物を飛ばしながら走る。


最初は慎重に歩いていた私も、陽介の大ざっぱさに軽く笑いながら、走って行った。


園庭の奥、的当ての裏に着くと陽介が目を閉じてと言った。


何だろ?


陽介の笑顔にワクワク感が伝わってくる。


さっきまでなくなっていた感情が少しずつ回復してきてる感覚。


目を閉じると、昨日の母親の声が耳に響いてくる。


耐えられなくて目を開けようとした時、陽介が私の両手をにぎった。


暖かい手が、私の冷たい手を溶かしていく。


安心感がジワジワと体に広がり、母親の声も消える。


心に張りついた氷も溶けていくような気がした。
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