【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
…ううん、違う。


そういう理由もあるけど、それは建前だ。


私自身が堂々と生きていきたいだけ。


ちゃんと施設に認められた卒業をして、後ろめたい気持ちなんか一切なく出ていきたい。


そうすれば、縛られた過去から解放されるような気がする。


「またいつでも来いよ」


考えていた頭に優しい声が響く。


顔を上げると、陽介が目尻を下げて笑っていた。


「俺はさ、親が迎えくる前から逃げてたじゃん?」


そうだった。


陽介と棟が離れてから全然会わなくなり、迎えに来るって聞いた時に初めて知ったけど、陽介はほとんど施設に帰らなくなってた。


母親が迎えに来なかったら、救護院行きだったかもしれないと笑っていたのを思い出した。


「理由は違うだろうけど、逃げたくなるくらい辛い時があるのは分かるから。逃げ場があるって思ってれば、多少楽だろ?」
< 295 / 358 >

この作品をシェア

pagetop