【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
それから施設の園長が待っている鶴岡八幡宮へ向かった。


歩いている時も電車に乗っている時も、さっちゃんはずっと手をつないでいてくれた。


つないでる左手だけが温かくて、少しだけ心がなごむ。


「あ!お煎餅食べようか!」


小町通りの手焼き煎餅屋の前を通った時、さっちゃんが励ますような明るい声を出した。


私が返事をする前にお店の人から2枚煎餅を受け取り、1枚私に差し出す。


何かを食べられる心境じゃなかったけど、さっちゃんの優しい笑顔に受け取った。


焼きたての煎餅は温かくて、少しだけ不恰好な丸が手作りなんだと感じさせる。


小さく口を開いてかじると、結構固かった。


ポリポリ口の中で砕ける音が耳に届く。


美味しい…


そう思うと視界が滲んだ。


下を向いて泣くのをこらえる私の頭に、さっちゃんの手が乗った。


「人間、辛抱さえ持ってれば生きて行けるんだって。辛抱する強さだよね」


懸命に泣くのをこらえながら、小さく頷いた。
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