【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
赤の他人が同じ空間で生活している。


喧嘩にもなるし、相性が合わないことなんかザラだ。


その中で、いずちゃんと陽介だけは1度も喧嘩をしたことがなかった。


いずちゃんなんか何年も同じ部屋で生活してるのに、嫌な部分が思い浮かばないほど。


もしも、陽介がいなくて甘える手がなかったら、捨てられたばかりの幼い私はどうしていたんだろう。


いずちゃんが陽介と入れ替わるように入ってこなかったら、私は支えを失ってきっと殻に閉じこもったままだっただろう。


親とも兄弟とも違う。


だけど友達や親友なんて簡単な言葉では表せない。


本当に自分人生で大切で重要な人。


そんな出会いをできたことに、感謝する。


今までは捨てられたからこんな人生だったとしか思えなかった。


だけど、いずちゃんや陽介、他の友達やさっちゃんも含めた親身な職員。


捨てられたから、色んな人との出会いがあった。


そう考えると良い出会いは確かにあったし、恵まれていたのかもなと、初めて施設で育ったことに感謝できる。


そんな気持ちを鶴岡八幡宮のもみじを見上げながらさっちゃんに伝えると、さっちゃんは泣きながら嬉しそうに何度も頷いた。
< 320 / 358 >

この作品をシェア

pagetop