【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
陽介が紹介してくれたキャバクラで面接をし、採用が決まった。


施設にはキャバクラで働くなんて言えるワケもなく、適当にアリバイ会社の名刺を差出した。


学校の卒業式が終わった10日後、施設を出ることが決定した。


「残り少しだからってハメ外すなよ」


山本がそう言ったが、少しいつもより優しい口調に感じた。


「いよいよだね!!」


廊下に出てはしゃぐいずちゃん。


「本…当に…決まった…んだよね…?」


呆然としながら呟く。


「決まったよ!!これで自由になれるんだよ!!」


私の両手を握るいずちゃんの笑顔を見るが、いまいち実感がわかなかった。


12年もいた場所。


嫌で嫌で自殺まで考えたこの環境。


…だけど、私の育った場所だった。


私が生きてきた環境。


出て行く時はきっと清々した気持ちになると思ってた。


未練なんか何もないし、振り返りもせずスキップしながら門を出ていくんだと思ってた。


でも、現実は違って出て行くことに戸惑いを感じる。


寂しさとか後ろ髪を引かれるとか、そういうのではなく、本当に実感がわかない。


施設以外の場所で、自分がどうやって暮らして行くのかが想像できなかった。
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