【実話】かげおくり~また君に恋をしたい~
沈丁花のいい香りが園の門を包んだ晴天の日。


私は施設を出ていった。


祝賀会でも送別会でも大泣きだったいずちゃんは、出て行く日も目が腫れるほど泣いていた。


さっちゃんも同じくらい大泣きしていて、私を強く抱きしめ小さな声で、


「いつでも帰っておいでね」


と、言ってくれた。


笑うだけで返事をしなかった私。


また帰っておいでね


その言葉に、あぁ私本当に施設を出て行くんだと感じる反面、今日出て行ったら二度と戻ってくることがないんだと言う感覚もあった。


寂しいとか悲しいとかじゃない。


ただ本当に実感がわかなかっただけ。


ずっと出て行くことだけが目標で、それがすんなりと叶った戸惑いもあったのかも。


自由になりたかった。


だけど、自由になったらどうすればいいのか分からなかった。


規則があるから破りたくなるような校則のような感じ。


門限もない、強制される掃除や勉強もない、どこに行っても何をしても誰にも怒られない。


縛られていた物が急になくなると、自由ってよく分からなくなった。


とりあえず、いずちゃんと渋谷に行って服を大量に買い込み、ピザを食べ、カラオケでオールした。


15歳の私たちにとって、それが精一杯の自由満喫だった。


施設を卒業、私の新しい人生の始まり。


康平に対しての罪悪感と、目標を達成して目指す物がなくなった虚無感を抱えて歌舞伎町に足を踏み入れた。
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