HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「色々?」久米が目をぱちぱちさせる。
「毒って言ってもポピュラー(?)なのは有機化合物のシアン化カリウム(青酸カリ)。
これは独特のアーモンド臭がするだろうし、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は凝固点が低いからりんごに入れるのは不向き。
トルエンなんかも独特の鼻にくる刺激臭がするし、アトロピンは量がいるだろうから不自然だよね」
あたしの言葉に久米は目を点にさせた。
「へぇ……詳しいね…」
あたしはちょっと肩をすくめて「理数系だから」と答えた。
「文系の答えを期待してるのなら、英語で広義の毒全てを含んで「Poison」と呼び、動植物に微生物を含む全ての生物由来の物に対して「Toxin」と、昆虫を含む動物由来の物を「Venom」と区別してる。そんなとこかな?」
「あぁ、はい」
久米は目をぱちぱちさせながら、呆然としている。もはや返す言葉も見つからないようだ。
ちなみにあたしが愛用してる香水はHYPNOTIC POISON……催眠効果がある毒って言う意味だ。
もし香りが人に有害な何かを与えるなら、あたしは久米にこの香りをプレゼントしたい。
死に至らないでも、ちょっと大人しくなれば……なんて考えてるあたし。
背後で梶が、
「なぁあの二人何話してるの?」とひそひそと乃亜に聞いている。
「知らない方がいいよ」と乃亜が呆れて答えていた。
乃亜の言う通り、あんたは知らない方が身の為だよ。
「俺、鬼頭さんがそんなに喋ってるとこみたの初めてかも。もっと静かな人だと思ってた。…暗いとか大人しいとか言う意味じゃなくて、何ていうの…」
久米が考えるように首をかしげる。
「何に対しても無関心そう?それとも何考えてるか分からない?」
あたしが後を続けると、久米は苦笑を漏らした。