HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
まこ、はデスクの前に椅子に座って腕と長い足を組むと、ちょっとだけ眉間に皺を寄せている。
目がまたも、『余計なことに首突っ込みやがって』と語っていた。
でも一応は話を聞いてくれるから、結局のところ人が良いんだよな。
「嘘をついてるようには思えなかったけど、でもあの森本が?っていう信じられない気持ちはある」
「その姉貴が嘘をついてるんじゃねぇのか?どっかの誰かさんみたいに、弟なり妹なりをおちょくって愉しんでんだよ」
まこは肩をすくめて言った。
どっかの誰かさん…それはこの場合、僕の姉さんのことを言ってるんだろうな…
まこ、姉さんに痛い目遭わされたから…根に持ってるんだな。
「でも姉さんとは違うタイプだよ。どっちかって言うと……雅みたいな子だった…」
「まんま歌南じゃねぇか。あのアロワナ女」まこは忌々しそうにメガネのブリッジを直す。
アロワナって言うのはあの熱帯魚のことだ。
以前、雅とまこ、楠と僕って言う変な組み合わせで水族館に行ったとき、まこが雅をそうたとえて言った。
(※EGOIST参照)
とは言えこれが本心じゃないことも僕は知っている。(←いや、本心だ)
「姉貴が嘘をついている可能性の方が高いと思うけど?普通に見りゃ家族のつまはじき者と、期待をかけられた勤勉少女とを比べりゃそりゃ誰だって真面目な勤勉少女を信じるって。
それにたとえそれが真実だとしても、それが何か問題でもあるのか?今日びの女子高生はそれぐらい普通だって」
お前が一番知ってンだろ?と切れ長の目で問われて、僕は小さく頷いた。
「そうかもしれないけど……それが予備校をサボったり、勉強を嫌がったりしてる何かに繋がってる気がしてさ」
「勉強なんて好きなヤツぁ居ないって。お前の考えすぎだろ」
まこは早々に話を打ち切って、机の引き出しを開けた。