HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「でも今まではがんばってたんだ。それが溜まって爆発したって言ったらそれまでだけど、ちゃんと原因と解決方法があるのなら、それを知りたいんだ」
まこは机の中からファイルを一冊取り出して、メガネをちょっと直した。
「お前は昨日家庭訪問したんだろ?そこで抑圧的な母親の支配下に置かれた娘が自暴自棄になってることを知った。それだけ知りゃ充分だよ。
誰だって反抗期はある。俺だってこんな性格じゃなきゃグレてたね」
なんてあまりにもあっさり言われて、
「まこはグレてた方がましだよ」とつい口を尖らせる。
「んだとこらぁ」とガン垂れてくるが、僕はそれを無視した。
グレるを通り越してヤクザだな。
「でも一応、先輩として君の意見を聞かせてやってくれないか」僕が頼むと、
「俺にカウンセリングの真似事をやれと?生憎だが専門外だ」と、これまたあっさり、ばっさり。
雅といい、まこといい……僕の回りは薄情な人が多い気がする…
「何もカウンセリングを頼んでるわけじゃないよ。先輩として経験談を話してくれればいいんだ。たとえば勉強には生き抜きが必要だとか。
僕から言うより君から言ってくれた方が説得力あるだろうし」
僕が手振りで説明すると、
「やなこった」とまこ、は冷たい。
「医者になろうってヤツがこんなことで匙投げ出してたら、医者になった後どうなる?そんな弱気なことも言ってられないし、誰も助けちゃくれない。
ここでダメだったら、この先も医者になんかなれねぇよ。とっとと見切りつけて姉貴と同じ道を歩むんだな」
まこ、の言うことはもっともだ。
彼はいい加減でガラが悪いけど、医者と言う職業には誇りを持っている。
何とかしたい、って思うのはやっぱり僕のエゴなのだろうか―――