HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしには守るべきものがいっぱいある。
水月
乃亜―――それから保健医に梶、明良兄―――……
誰一人として傷つかせない。
―――
――
……TRRRR…
遠くで電話が鳴る音がする。ケータイではなく、家電(イエデン)の方だ。
TRRRR…
あたしは重い瞼をこじ開けると、明良兄の肩先で目覚めた。その向こう側で、乃亜が明良兄にしがみつくように眠っている。
………
いつの間にか三人一緒になって眠っていたようだ。
あたしはのろのろと起き上がると、ベッドの下にお菓子の残骸が散らばっているのに気づいた。
後で二人に掃除させよ。そう思いながら、そろりと部屋を出て一階のリビングルームに置いてある電話機に向かった。
TRRR…電話は鳴り続ける。
広いリビングで、その音がやけに大きく響いて聞こえた。
白いプッシュフォン式の電話機を見つめて、あたしは眉をひそめる。
ナンバーディスプレイに見知らぬ番号が通知されていたから。
受話器に手を伸ばし、それでも一瞬躊躇した。
まさか―――ストーカー野郎から……?
そう思ったけれど、それならば一度声を聞いてみるのもいい。
それでもドキン、ドキンと心臓が音を立て、受話器を握る手が震えた。
「―――…はい、鬼頭です」
たっぷり時間を含ませたあと、あたしが名乗ると、
『もしもし?鬼頭さんのお宅ですか?鬼頭 省吾(キトウ ショウゴ)さんのお宅?』
聞こえてきたのは、女の声で…妙に明るいおばさんの声だった。