HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
とりあえずストーカーとは無関係そうだ。
それでも―――誰…?
「省吾はうちの父ですが。父に何か御用ですか?」
そう聞くと、
『ああ、申し遅れました。私、右門 博の選挙運動している運動員でタナカと申します。右門 博のこと、お嬢ちゃん分かるな??』
急に打ち解けたように言われて、あたしはちょっと首を捻った。
ミギカド……
「ああ……県会議員の…」
変わった苗字だったから覚えている。
『そうよ~。お父様かお母様はご在宅?』
そう聞かれて、あー…選挙運動か、大変だな。なんて考える。
「二人とも今ちょっと出かけてます。あたしには選挙権がないので、両親にはちゃんと伝えておきますよ」
『じゃあお願いしようかしら。今度の選挙には是非!右門を宜しくお願いします!と』
一方的にぺらぺらと喋られて、あたしは迷惑そうに顔をしかめ、ちょっとだけ受話器を遠のけた。
選挙活動のおばちゃんは一通り喋ったのか、満足そうに頷いて、
『じゃ、お願いね』なんて慣れなれしく言って電話を切った。
両親が次の選挙までに帰ることはないだろうし、なんかゴメンなさい。なんて心にもないことを思ってみる。
受話器を置いたところで―――あたしはそのまま止まった。
確か―――…ミギカド ヒロシって言ったよね…
タナカさんはどこにでも居る元気なおばちゃんみたい。あのテンションにはついていけないけど、悪い人ではなさそうだ。
問題はあのおばちゃんじゃない。
受話器を見下ろして、じっと白い電話機を凝視していた。
ミギカド―――?