HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしは急いで部屋に戻ると、まだ眠っている明良兄をたたき起こした。
不機嫌そうにのっそりと起き上がった明良兄をベッドの端に追いやると、ノートパソコンを起動させ、膝の上に乗せて慌ててインターネットに接続させる。
すぐ隣で乃亜もあたしの手元を覗き込むようにしている。
「…一体どうしたって言うんだよ…」
まだ寝ぼけ眼の明良兄が欠伸をしながら、いぶかしそうにあたしたちを眺めた。
「明良兄、ミギカドって知ってる?右門 アツシ」
画面から目を離さずに言うと、明良兄が首を捻る気配を背後で感じた。
「ミギカド……あー…下の名前がアツシだったかは知らねぇけど、中学が一緒だったぜ?」
と明良兄はのんびり答える。
「中学が一緒!?」
乃亜が勢い込み、明良兄がたじろいだように身を後退させた。
「つっても学年は俺より2こ上だったけど…議員の息子ってことで有名だったよ。っつっても、本人は目立たない……どっちかってぇと暗そうなヤツだったぜ?
そいつが何?」
怪訝そうに声を低め、
“右門 博県会議員”と打ち込んでいるあたしの手元を覗き込んでくる。
「―――分かんないけど、あたしそいつに会ったことある。右門議員の息子ってヤツに。他に何か知らない?」
あたしが振り返らずに聞くと、
「…さぁはっきりとは……学年が2こも上だったし、これといって接点もないし…」
「でも中学が一緒ってことは学区が一緒だったってことだよね。近くに住んでたってことだよね?」
乃亜があたしの代わりに聞いてくれて、明良兄はまたも首を捻った。
「さぁ。家は……はっきりと知らないな…」
そう言いかけて、「ああ…そう言えば…」と思い出したように声を出す。
「「何?」」
あたしと乃亜の声が重なり、二人で振り返ると明良兄はまたもちょっと身を引いて、
「はっきりとは言い切れないけど、何か家の事情が複雑だとか……そいつ、確かばあちゃんだったか、じいちゃんだったか、その家で住んでるみたいだったぜ?」
と自信がなさそうに顎を引いた。