HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
でもその前に冷静に考えてみる。
あのアイデアを出したのは―――楠だ。
楠が―――……アイデアを盗むとは言いがたい。
あの子は良い意味でプライドが高いし、言ったことの責任をちゃんと果たせる子だ。
他人のアイデアを盗んでまでどうこうしようって生徒じゃない。
「僕の生徒がそんなことをするはずがないです」
僕は石原先生の目をまっすぐに見返して、はっきりと言い切った。
隣の席で和田先生がはらはらした面持ちで、言い合いをしている僕たちを交互に見ている。
ちょうど出勤してきたまこも遠くの方で何事か目を丸めている。
「だってD組でしょ?そんな頭の回る生徒はいないでしょう。だけど悪巧みだけには頭が働きそうだけど」
カチン、と来て僕は今度こそ石原先生を敵意のある視線で睨みつけた。
「僕は生徒たちを信じてます!アイデアがかぶったことはたまたまじゃないですか!?」
思った以上に大きな声が出て、周りがしんとなった。
「ま、まぁまぁ神代先生もそう熱くならずに。たかが文化祭じゃないですか」
と近くに居た年配の女性の先生が宥めるように僕の肩に手を置く。
「たかが文化祭と言いますが、それでもうちの生徒たちは一生懸命です(……たぶん)」
まとまりないけど。
最初はみんなやる気なかったけど。
でもA組に負けないと言う強い気持ちが、今クラスを一つにしようとしている。
食い下がる僕に、石原先生は「やれやれ」と言った感じで肩をすくめ、それでも僕をちらりと睨んで自分の席に帰って行った。
まだ怒りが収まらない僕は、鞄を乱暴に机に置いて椅子に座った。
「せ、先生…落ち着いて…」
今度は和田先生が宥めるように…それでも心配そうに僕に笑いかけてきた。