HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「はぁ?犯人ってなんのだよ」
保健医は怪訝そうにあたしを睨み上げ、あたしはちょっと笑った。
「下着ドロボー」
「お前のだけは頼まれたって、金積まれたってしねぇよ」保健医は顔を歪めて、それでも
「盗まれたのか?」ってちょっと心配そうに聞いてきた。
ついでに言うと、相談する相手でもないな。
こいつもやっぱり「警察に行け」派だろうし。
あたしは笑顔を浮かべたまま、
「うん、水月のがね」と答えた。
「「え!?」」保健医と乃亜の声が重なって、あたしはちょっと舌を出したまま彼らに背を向けて保健室を出た。
保健室を出たところでちょうど久米と出くわした。
久米……帰ったんじゃないの?
いきなりドアを開けたあたしにびっくりしたように、久米が目を丸める。
手にはケータイ。
一瞬訝しんだけど、こいつがストーカーの犯人ではないような気がした。
だってこいつあたしに執着しないでも、女に不自由しないだろうし。
知らないとこで恨み買ってたら分からないけど…
でもストーカーするような陰湿なやつじゃないことは確か。
あたしは黙って久米の横を通り過ぎようとした。
そのとき、
「あ、鬼頭さん」急に呼び止められた。
「何?」面倒くさそうに振り返ると、久米は爽やかな笑顔を浮かべて、
「実行委員、がんばろうね」
って手を振ってきた。
あたしは無言で、その場を立ち去った。