HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
■Forest.9
■Forest.9
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無言のままソファに座り、考えること一時間。
今は梶の他に、乃亜と明良兄も居る。
乃亜は中学に行ってクラス名簿や集合写真とかを見せてもらったみたいだけど、久米の名前はどこにもなかったらしい。
一方の明良兄はお兄の先輩から卒アルを借りてきて、今それはテーブルの上で広げられていた。
問題の“右門アツシ”は“篤史”と言う漢字で、アルバムの個人写真を見てもぴんとこなかった。
右門 篤史は―――あたしから見て、なかなか整った顔をしている。
何て言うんだろ…ちょっと影がある謎めいた美少年…ってとこかしら。
サラサラした黒い髪、目はちょっと大きめで鼻筋が通っている。
ただ無愛想のように思えるのは、他の生徒たちの写真が誰もカメラ目線でにっこり笑顔に対して、何かから避けるようにそっけなく、その表情には翳りを滲ませていた。
この写真は五年前の写真だから、今では変わってるかもしれないけど、この様子じゃモテたろうな……
やっぱりこいつがストーカー説には何となく納得できない。
あたしの記憶違い?
「台本を一度読んだだけで台詞を覚えるヤツだぜ?一度見たヤツのことを忘れるわけないよな」
と梶が腕を組む。
「人の顔は別だよ。あたし顔覚えるの苦手」
「覚える気がないからでしょ」
と乃亜が呆れる。
ま、乃亜の言った通りだけど。
でも確かにあたしはミギカド アツシと名乗る男に会ってるのに―――
こいつじゃない気がするのは只の思い違いなのか。
それともやっぱり久米が犯人?
「久米くんがそんな風に取り引きしてきたなんて……まだ…信じられないよ…」
乃亜が眉を寄せて深く項垂れている。“信じられない”じゃなくて“信じたくない”と瞳が語っていた。
「思えばアイツ、鬼頭にやたらとちょっかい掛けてたし!!アイツがストーカーで、神代との関係も調べ上げて、それでそれをネタにゆすってんだよ!」
梶が怒鳴り声を上げてテーブルを叩いた。
「で?お前、どうするんだよ。さっきからパソコンをじっと見て。しかも何ケータイのページ見てんだよ」
明良兄が呆れたようにため息を吐いて、あたしは卒業アルバムの横に置いたノートパソコンから目を逸らした。