HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
闇雲に探し回っちゃだめだ。
そんなこと分かっているのに、何せ手がかりがない。
台本読みが終わって、片付けをしているほんの数分の間に乃亜は姿を消した。
乃亜が見知らぬ誰かに呼び出されても、その呼び出しに応じるわけない。
特に今は警戒しているときだ。
と言うことは、顔見知りの誰かが乃亜を呼び出したのか、あるいは自分の意思で―――…
だめだ…考えがまとまらない。
そんなときだった。
「鬼頭!」
廊下の奥で、あたしを呼ぶ声を聞いた。
いつも優しい温度を感じるその声は、少しばかり緊張で上ずっていたけど、
何度も何度も呼ばれた愛しい声―――
「……先生―――」
水月が走ってこちらに向かってくる。
「楠が居なくなったって、まこから聞いた。事情は後でゆっくり聞くから僕も探すよ」
水月の声を聞いて、何故だか急に涙が出そうになってきた。
「……先生、どうしよ…乃亜が…乃亜が居なくなったの…。あたしが…」
あたしは水月の両腕を握って勢い込んだ。
「あたしのせいなの!どうしよう、乃亜に何かあったら」
あたしは涙で滲む視界で水月を見上げると、水月がいつになく真剣な視線を返してきてあたしの両肩に手を置いた。
あったかい…力強い手だった。
「しっかりしなさい。君がしっかりしないといけないよ。大丈夫、みんなで探せば見つかる」