HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしはそんな気持ちで水月を見上げた。
水月の色素の薄い瞳は、この状況下でどうするべきか、選択を迫られてるのか不安げにゆらゆらと揺らいでいた。
「あたしなら大丈夫」
もう一度はっきりと言うと、水月はこくりと頷き、くるりと踵を返すと保健医たちの後を追っていった。
それでも心配なのか、水月は何度もこちらを振り返っていた。
水月の姿が廊下を曲がって見えなくなると、
「愛されてるね。あれじゃ俺じゃなくても君との関係が分かるよ」
と、久米が楽しそうに低く笑った。
「…………」
あたしは無言で久米を見据えると、久米はほんの少し眉を寄せた。
「怖い顔」
「乃亜に何を言ったの」
あたしは久米の言葉を無視して、久米を睨んだ。
眉間に深い皺が刻まれるのが分かった。
あたしの手の中で再びケータイがみしりと音を立てる。
「何って…別に、大したことじゃないよ」
久米があたしの元へゆっくりと歩いてくる。
下校時間を過ぎた廊下はひっそりと静まり返っていて、久米の足音だけがやけに大きく響いた。
でもあたしは怖くない。
恐怖よりも―――怒りの方が勝っていたから。